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先日、タンクローリーの給料相場の記事に、現役の方からコメントをいただきました。
燃料油——ガソリンや軽油の配送で、牽引ではない単車に乗って5年。去年の年収は650万円だったそうです。ただし、毎月コンスタントに70時間の残業があると。新人でも正社員なら年収550万円ほど、遠方から来る人には住まいを借り上げてくれる求人が実際にある、という話も書いてくださいました。
ありがたいコメントでした。自分の記事に、現役の方がわざわざ数字を書き込んでくれる。これ以上の補強はありません。
ただ、私が一番引っかかったのは「650万」のほうではありませんでした。「残業70時間」のほうです。
私はトラックドライバーとして25年、そのうち海上コンテナのトレーラーに15年乗ってきました。その25年で分かったことがあります。残業70時間がきついかどうかは、時間ではなく、仕事の中身で決まるということです。
まず、650万という数字について
先に、数字の整理をしておきます。
私は給料相場の記事で、ガソリン・軽油配送の年収相場を400〜480万円と書きました。今回いただいた650万円は、そこから160万円以上、上にあります。
これは矛盾ではないと思っています。理由は3つあります。
- 毎月70時間の残業が乗っている
- 会社と地域によって、待遇に差がある
- コメントをくださった方自身が「上澄みも良いところかもしれない」と書いている
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、営業用大型貨物自動車運転者の平均年収は約492万円です。これも残業込みの数字です。650万円は、そこからかなり上に離れています。
だから私は、相場表を書き換えるつもりはありません。400〜480万円は、今も中心線だと思っています。ただ、そこに一行だけ足したい。会社と残業次第で、上に伸びる余地はある。これは現役の方が数字で示してくれたことなので、素直に受け取ります。
もうひとつ。この方は牽引ではなく単車です。牽引免許がなくてもそこまで行くというのは、これから目指す人にとっては大きい情報だと思います。
私も、70時間はやっていたと思う
ここからが本題です。
月70時間の残業。これを聞いて私が最初に思ったのは「多いな」ではありませんでした。「ああ、自分もやっていたな」でした。
海上コンテナに乗っていた頃です。正確に記録していたわけではないので断言はできませんが、たぶん、それくらいはやっていたと思います。月70時間というのは、週にすると16時間ほど。1日あたり3時間ちょっとです。朝が早くて、夕方に帰る。そういう働き方をしていれば、自然とそのくらいにはなります。
ただ、正直に言うと——あの頃、きついとは思っていませんでした。
それでも、きつくなかった理由
なぜか。理由ははっきりしています。
ひとつ目は、手積み・手降ろしがなかったことです。
海コンは、コンテナごと運びます。中身を自分で積んだり降ろしたりしません。荷役はヤードや倉庫の設備と人がやってくれる。体を使うのは、運転と、連結・切り離しくらいです。
これがどれだけ大きいかは、手積み手降ろしをやったことがある人なら分かると思います。別の記事にも書きましたが、手で積んで手で降ろす仕事は、時間以上に体を削ります。同じ10時間でも、終わったあとの体の残り方がまったく違う。
ふたつ目は、毎日帰れたことです。
長距離で車中泊が続く働き方だと、70時間どころの話ではありません。家に帰れない日が続くというのは、残業時間には表れないきつさです。私は毎日、自分の家で寝ていました。これは大きい。
三つ目は、夜に家族との時間があったことです。
残業して帰っても、夜は家にいました。顔を見て、飯を食って、寝る。それができていたから、70時間でも「まあ、こんなものか」でやれていたんだと思います。
つまり私にとっての70時間は、体が残っていて、毎日帰れて、夜は家にいられる70時間でした。これなら、やれます。
同じ70時間でも、中身がまるで違う
ここが、この記事で一番言いたいことです。
求人票を見るとき、多くの人は「残業◯時間」という数字を見ます。少ないほうがいい、多いときつい。そう考えるのが普通です。
でも、70時間という数字だけでは、きついかどうかは分かりません。
- 手積み・手降ろしがある70時間
- 長距離で、家に帰れない日がある70時間
- 地場で、積み下ろしは設備がやってくれて、毎日帰れる70時間
この3つは、まったく別物です。数字が同じでも、生活も、体の残り方も、何年続けられるかも違います。
だから求人票で残業時間を見たら、その次に必ず確認してほしいことがあります。
- 荷役はあるか。あるなら手作業か、設備か
- 毎日家に帰れるか。泊まりはあるか
- 始業は何時か。早朝や夜勤はどのくらいの頻度か
この3つが分かって、はじめて「その70時間がきついかどうか」が見えてきます。時間は器で、中身は別にある。私はそう思っています。
「残業代別途支給」の、本当の意味
もうひとつ、求人票の話をしておきます。これは今の私自身の話です。
今の私は、残業がありません。そして求人票には「残業代別途支給」と書いてありました。
ただ、実際に働いてみて分かったのは、こういうことです。契約の書面では、拘束11時間、うち休憩1時間。でも実際は、月の平均でならすと1日8時間ほど働いて帰っています。書面の枠の中に一定の残業があらかじめ織り込まれていて、それが基本給に含まれている。「残業代別途支給」というのは、たぶんそのみなし分を超えた分だけ、別に払いますよという意味なのだと思います。
これは私の理解なので、断定はできません。ただ、そう考えると辻褄が合います。
ついでに言うと、書面の拘束時間と、実際に働く時間はイコールではありません。私の場合は書面より短く帰れていますが、逆のパターンもあります。求人票の数字は「枠」であって、日々の実態はまた別だということです。
ここが求人票の分かりにくいところです。「残業代別途支給」と書いてあると、働いた分は全部出ると読んでしまう。でも実際は、みなし分の中に収まっている限り、支給額は増えません。嘘ではないけれど、受け取り方はまるで違います。
調べてみたら、固定残業代(みなし残業)を採用している会社は、求人票に次の3つを明示する義務があります。2018年の職業安定法の改正で決まったものだそうです。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代の金額と、それが何時間分にあたるか
- その時間を超えた分は、別途支給するということ
逆に言えば、「残業代別途支給」としか書いていない求人は、確認したほうがいいということです。
面接で聞く一言は、これで足りると思います。
「基本給に、みなし残業は何時間分含まれていますか」
この答えひとつで、提示されている年収の意味が変わります。45時間分が含まれているのか、10時間分なのかで、実際の働き方はまったく別のものになる。聞きにくい質問ではありません。むしろ、きちんと答えてくれるかどうかが、その会社を見る材料にもなります。
2024年問題で稼げなくなった、という話
残業の話をすると、必ず出てくるのが2024年問題です。
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働に上限がつきました。年960時間です。月に直すと平均80時間。今回の70時間は、この中にきちんと収まっています。ただ、上限までの余白は、それほど残っていません。
つまり650万円という数字は、制度が許す範囲でしっかり働いた場合の金額だということです。ここからさらに残業を増やして年収を上げる、という道は、もう構造的に閉じています。
「規制で稼げなくなった」という声も聞きます。ただ、これについては私は自分の言葉で語れることがありません。残業ありきの会社で働いた経験がないからです。実際にどれくらい減った人がいるのか、基本給で埋め合わせた会社がどれくらいあるのか、私は知りません。
知らないことを、知っているように書くつもりはないので、ここはここまでにしておきます。
手取りにすると、いくら残るのか
額面の話をしたので、手取りにも触れておきます。
ざっくりですが、年収から税金と社会保険料を引くと、手元に残るのはおおよそ75〜80%です。扶養の状況や住んでいる場所で変わるので、あくまで目安として見てください。
- 年収650万円 → 手取りおおよそ490〜510万円
- 年収550万円 → 手取りおおよそ420〜440万円
- 年収480万円 → 手取りおおよそ370〜390万円
月に直すと、650万円で40万円前後。ここから家賃や生活費が出ていきます。額面の数字ほど、手元は増えません。求人票の月収例を見るときは、いつも頭に置いておいたほうがいい部分です。
それでも私は、タンクローリーに行きたい
ここまで書いてきて、自分の話に戻ります。
今の私は、残業がありません。時間で言えば、海コンの頃よりずっと楽です。でも年収は、あの頃のピークより下がりました。そして体は、あの頃より疲れます。
だから「月70時間の残業」と聞いたとき、私が思ったのはこうでした。
今の仕事で70時間はきつい。でも、タンクローリーならやれる。
タンクローリーは手積み手降ろしがありません。積むのも降ろすのもホースと設備です。仕事の種類によって違いはありますが、少なくとも今より体は楽になるはずです。体が楽で、その分稼げるなら、もっと働いてもいい。正直、そう思っています。
20歳でこの業界に入って25年。これから体力が落ちていくことは、自分でも分かっています。だからこそ、体を削って稼ぐ働き方から、体が残る働き方に移りたい。時間を減らしたいのではなく、中身を変えたい。それが、私がタンクローリーを目指している理由のひとつです。
それに、今回のコメントを読み返して、いちばん刺さったのはここでした。
乙4は持っている。大型も、けん引もある。道具は揃っているのに、まだ使っていない。
これから取ろうとしている人が、半年や一年かけて手に入れるものを、私はもう持っている。持っているのに使っていない。資格は、取った時点では何も変わりません。使ってはじめて意味が出る。それを、他人のコメントに教えられました。
とはいえ、まだ応募ボタンは押せていません。その情けない現在地については、こちらの記事に書いた通りです。
まとめ
- 年収650万円は、残業70時間が前提の数字。中心線は400〜480万円だと今も思っている
- ただし会社と地域によって、上に伸びる余地はある。牽引でない単車でも届く
- 残業70時間がきついかどうかは、時間では決まらない。荷役・泊まり・始業時刻で決まる
- 「残業代別途支給」は、みなし分を超えた分のこと。面接で「みなし残業は何時間分か」を必ず聞く
- 時間外の上限は年960時間。残業で年収を伸ばす道は、もう構造的に狭い
- 手取りは額面のおおよそ75〜80%。650万円でも、手元は月40万円前後
最後に、コメントをくださった方へ。具体的な数字を書いてくださって、本当にありがとうございました。おかげで、自分ひとりでは書けない記事になりました。
「みなし残業は何時間分か」を、自分で聞きたくない人へ
この記事で書いた「基本給に、みなし残業は何時間分含まれていますか」という質問。大事だと分かっていても、面接の場で自分から聞くのは気が重い、という人もいると思います。
ドライバー専門の転職サービスを間に入れると、そういう条件面は先に確認してもらえます。私はまだ登録していません。自分で動きたい気持ちがあるからです。ただ、無料で使えるものなので、こういう手もあるということは書いておきます。


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