トラックの求人票で「トレーラー」「牽引」という文字を見て、乗ってみたいと思う人は多いと思います。給料も上がるし、あの長い車体はやっぱりカッコいい。でも同時に、「自分にあの長さを扱えるのか」という不安もあるはずです。
私はトラックドライバーとして25年、そのうち海上コンテナのトレーラーに15年乗ってきました。牽引免許を取ってから、ずっとこの長い車体と付き合ってきたことになります。
私がトレーラーに乗り換えた経緯や、牽引免許を取るまでの話は別の記事に書きました。この記事はその「その先」——免許を取ったあと、実際に現場でトレーラーをどう動かすのか、という実技の話です。特に、新人が最初にぶつかる「連結・切り離し」と「バック」に絞って、私が新人に最初に教えることを、正直に書いていきます。
まず覚えるのは「連結・切り離し」
トレーラーは、エンジンのある「ヘッド(トラクタ)」と、荷物を載せる「シャーシ(台車)」が切り離せる構造になっています。だから運転の前に、まずこの連結と切り離しを覚えないと仕事になりません。新人が一番最初に覚えるのが、ここです。
連結の手順
- バックでヘッドをシャーシに寄せ、カプラー(連結部)にシャーシのピン(キングピン)をつなげる。このとき、必ず「カチャン」と音がするまでしっかり入れること。
- つないだら、ヘッドを少し前に出して、外れないかを引っ張って確認する。ここを省くと、走り出してから外れる大事故につながります。
- 必ずサイドブレーキを引いてから運転席を降りる。これを引かずに降りると、次にエアホースをつないだ瞬間にシャーシが下がってくることがあって、本当に危ない。
- エアホース2本と、電気の配線をつなぐ。この電気の線、私がいた会社では「7芯(ななしん)」と呼んでいました。正式にはジャンパケーブルといって、シャーシのテールランプやブレーキランプを光らせるための線です。
- 足巻き——シャーシを支えている足(ランディングギア)を巻き上げる。
- 最後に、シャーシのタイヤとテールランプがちゃんと点くかを確認して、連結完了です。
切り離し(台切り)の手順
- まず、サイドブレーキを必ずかけてから降りる。連結のときと同じで、ここは絶対です。
- ホース類(エア2本と電気の線)を外す。
- 足(ランディングギア)を降ろす。実入りのコンテナなど重い荷物のときは、少し足を接地させてからさらに巻くと、ヘッドが抜きやすくなります。
- ピンを外す。たまに外れないときがありますが、そのときはヘッドを前後に少し動かして、ガチャガチャやると外れやすくなります。
ちなみに、シャーシを切り離すときの足の高さは人それぞれです。車種によってカプラーの高さが違うので、足を接地させず、少し浮かせた状態で台を切る人もいます。ここは自分の車と現場に合わせて覚えていくところです。
そして、切り離しで一つだけ絶対に守ってほしいことがあります。ピンから先に抜かないこと。少しでも坂になっている場所だと、ピンを先に外した瞬間にシャーシが下がって、勝手に切り離されてしまいます。これは大事故です。手順の順番を守る。これだけは、新人に必ず言います。
バックが最大の壁——「逆に曲がる」感覚
連結を覚えたら、次はいよいよバックです。トレーラーのバックは、普通のトラックとまるで違います。ハンドルを切ると、シャーシは逆に動く。頭では分かっていても、体が最初はまったく追いつきません。ここでつまずく新人は本当に多い。かく言う私も、最初は現場で大失敗をやらかしています。
今思えばなんてことない左バックで、大渋滞を起こした話
海コンに乗り始めて、まだ日が浅い頃のことです。今の自分なら何てことのない、ただの左バックでした。
その日は通勤ラッシュで交通量が多く、現場の人が道の車を止めてくれて、その間にバックで入れる、という状況でした。ところが、「みんなを待たせている」と思った瞬間、私は焦ってしまったんです。一発で決められず、何度も切り返す。そのたびにブレーキを細かく踏む。踏む、踏む、踏む——。
気づいたら、エアが無くなっていました。トレーラーは空気の力でブレーキが動いています。踏みすぎるとエアを使い切ってしまい、そうなるとブレーキが効いたままになって、車が完全に動かせなくなる。両方の道を塞いだまま、私は立ち往生してしまいました。エアはなかなか溜まらない。後ろはどんどん渋滞していく。あのときの、汗が引かない情けなさは今でも忘れません。
初心者は、バック中にブレーキを細かく踏みすぎる傾向があります。慎重なのは悪いことじゃない。でも、焦って切り返しを繰り返し、そのたびにブレーキを踏んでいると、あっという間にエアが尽きる。これは教習所では教えてくれない、実車ならではの落とし穴です。
左バックの手順——「中の窓を使え、カッコつけるな」
失敗談の次は、私が実際にやっている左バックの手順です。文章だと分かりにくい部分もありますが、意識する順番を知っておくだけで、習得はぐっと早くなります。
- まず左ミラーを見ながら、入れたい方向へシャーシを寄せていく。
- いい所まで来たら、角度をつける。
- すると、コンテナの後ろの角がミラーに見えてくる。
- さらに下がって、その角が左ミラーで見えづらくなったら、運転席の中にある後ろ窓に目線を切り替える。
- 最後の距離感は、中の窓から直接見て詰める。ミラーだと最後の距離感がどうしても掴みにくいからです。
ここで一番言いたいのは、「中の窓を使え、カッコつけるな」ということです。中の後ろ窓は、光が入るからとカーテンを閉めている人が多い。使わないのは、慣れもありますが、正直「カッコつけ」の部分もあります。でも、左バックでの接触事故は本当に多いんです。見栄より安全。中の窓は、遠慮なく使ってください。
そしてもう一つ、左バックで見落としがちなのが右側です。左ミラーと中の窓に集中していると、ヘッドが折れている分、反対の右側がまったく見えなくなります。ちょうど右バックで左側が死角になるのと逆で、左バックでは右側が死角になるわけです。特に見えないのが、右側のコンテナの後ろの角。ここに壁や柱、隣のトレーラーがあっても気づけず、そのままぶつけてしまいます。だから左バックのときも、右側が不安なら遠慮なく降りて確認してください。
右バックはラク、でも落とし穴がある
右バックは、左に比べればラクです。運転席の窓から顔を出せば、シャーシを直接目視できますから。
ただし、ここにも落とし穴があります。角度がついてくると、左ミラーがとんでもない方向を映すようになって、左側がまったく見えなくなる。そうなると、左側は勘で下がるしかありません。右バックはラクだからと油断していると、この見えていない左側をぶつけます。ラクなときこそ、一度降りて確認するくらいの慎重さがちょうどいいです。
とはいえ、勘といっても、初心者にはなかなか難しいものです。だから、少しでも不安になったら、バックの途中でも構わないので、一度停めて降りて確認してください。何しろ、ぶつけないことが一番です。最初のうちは、何度でも降りて確認していい。それで恥ずかしいことなんて、一つもありません。
あの日の失敗から学んだ、今の私のやり方
エア切れで大渋滞を起こしたあの日から、私がバックのときに気をつけていることは、こうです。
- まず、どこに接車するのかをヘッドから降りて自分の目で確認する。
- 一発で入れようとしない。切り返す前提で、余裕を持って動く。
- とにかく気持ちを落ち着かせる。焦りが一番の敵です。
- ミラーを見て、しっかり安全確認をしてから下がる。
- バック中は、ゆっくり速度を調整する。今のトラックはオートマが多いので、アクセルの加減で速度をコントロールします。もちろん、接車する場所が狭ければブレーキもちゃんと踏みます。要は、踏みすぎないこと。
- もしエアが減ってきたら、無理に続けない。一旦停止して、エンジンを回してエアを溜め直してから、もう一度やり直す。
結局いちばん大事なのは「落ち着くこと」
連結も、切り離しも、バックも、細かいコツはいろいろあります。でも25年やってきて思うのは、結局いちばん大事なのは「落ち着くこと」だということです。私があの日大渋滞を起こしたのも、腕がなかったからじゃない。ただ焦っただけです。
ミラーの距離感は、最後は体で覚えるしかありません。数をこなせば、必ず身につきます。ただ、「落ち着け」というのが、初心者にとっては一番難しいんですよね。それも分かった上で言います。最初は誰でも下手です。焦らなくて大丈夫。一つずつ、体に覚えさせていけばいい。あの日の私みたいに、情けない思いをする前に、この記事が少しでも役に立てば嬉しいです。

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