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「給料は変わりません」
面接で、そう言われました。前の会社と同じくらいは出ます、という意味です。
前の会社が倒産して、その会社ごと今の会社に引き取られる形で移りました。だから「給料は変わりません」は、比べる相手のある言葉でした。この経緯は収入が下がる転職を、家族にどう説明したかに書いています。
今になって思うと、この言葉自体は、たぶん嘘ではありませんでした。基本給だけを見れば、数字は確かに変わっていなかったからです。
ただ、入ってから分かったことがあります。給料は「いくらか」だけでできているわけではない、ということです。
面接で出された紙を、手に取ることはできませんでした
面接のとき、条件が書かれた紙はありました。ちゃんと、目の前にありました。
ただ、その紙を、こちらに向けてはくれませんでした。
相手が持ったまま、向こう向きのまま、口で説明されました。手に取って読むことも、もらうこともできませんでした。
おかしいな、とは思いました。25年この業界にいて、条件の紙を一枚ももらえなかったのは初めてでした。
でも、その場では何も言いませんでした。採用してもらう側で「見せてください」と言うのは、正直やりにくい。ここは、読んでいる方も分かると思います。
最初の給料明細を見て、手が止まりました
入って、最初の給料日。明細を開いて、少し固まりました。
手当が、一つもありませんでした。
基本給。残業。交通費。あとは、社会保険などの引かれる項目だけ。それだけです。
25年やってきて、こんな明細は初めて見ました。
前の会社の明細には、これが並んでいました
- 皆勤手当
- 愛車手当(自分の車をきれいに整備していると付く)
- 研修手当(安全講習に出たときに付く)
- 無事故手当
一つひとつの金額は、大きくありません。でも全部足すと、それなりになります。そして何より、「こうしたら、こう返ってくる」というのが目に見えていました。
今の明細には、それがありません。何をやっても、何も増えません。
「基本給が高い」の正体
基本給の数字だけを見ると、悪くありません。むしろ、前より高く見えるくらいです。
ただ、そこにはみなし残業が入っています。
入るときに口頭で言われたのは「仕事は8時間程度。残業は10時間分がみなしで入っていて、それを超えたら支払う」という話でした。
実際、明細の残業の欄には金額が入っています。残業していない月も、入っています。みなし分なので、当然といえば当然です。
では、10時間を超えたらどうなるのか。正直に言うと、私は分かりません。超えた月があったのかどうかも、超えた分が払われたのかどうかも、確かめる方法がないからです。
基本給が高く見えるのは、そこに残業代が溶けているからです。手当が並んでいる会社より高く見えて、実は取り分が同じか、それ以下ということが起きます。この仕組みは残業70時間はきついのかにも書きました。
休日手当は、3ヶ月でなくなりました
入るとき、こう言われていました。
「週休二日です。ただ、週一で出てくれれば休日扱いで、手当が付きます」
最初の3ヶ月は、その通りでした。出た分だけ、休日手当が付いていました。ああ、言われた通りだな、と思っていました。
4ヶ月目。休日手当が、なくなりました。
そのときは、祝日が入っていた月だったので、その関係かな、と思いました。祝日は休みだから計算が違うのかもしれない、と。自分で自分に説明をつけていました。
そして、祝日が一日もない月が来ました
その月、私は日曜以外、全部出勤しました。
休日手当は、ありませんでした。
これで、祝日という説明は使えなくなりました。
明細のコピーを渡して、説明してくださいと言いました
さすがに、言いました。
感情的にならないように、給料明細のコピーを渡して、こう言いました。「これ、説明してもらえますか」
返ってきたのは、これでした。
「上に確認するので、待ってください」
待ちました。
返答は、来ませんでした。
催促はしませんでした。もう一度言えば、何か返ってきたのかもしれません。でもそのときにはもう、別のことを考え始めていました。
今は、何も言っていません。休日手当は、今も一円も付いていません。
一番きついのは、確かめる方法がないことでした
ここまで書いてきて、自分でも整理がついたことがあります。
手当がないこと自体は、まだ分かります。そういう給与体系の会社なのだと言われれば、それまでです。入る前に確かめなかった自分の落ち度もあります。
きついのは、確かめる材料が、こちらに一つもないことでした。
私はこの会社と、書面を一枚も交わしていません。
雇用契約書もありません。労働条件通知書もありません。署名もしていません。全部、口頭です。
だから、休日手当が消えたときに「話が違う」と言い切れませんでした。「そんな約束はしていない」と言われたら、否定する材料が何もないからです。
「話が違う」と言うためには、その”話”が形になって残っていないといけない。これが、今の会社に入って一番身にしみたことです。
調べてみたら、法律で決まっていました
この記事を書くにあたって、調べました。
そうしたら、面接の段階と入った後で、根拠になる法律がそれぞれ別にあることが分かりました。私は25年やってきて、どちらも知りませんでした。
面接のとき ── 職業安定法5条の3
求人を出して人を募集する会社には、募集の段階で労働条件を明示する義務があります。職業安定法5条の3です。
そしてその方法は、「書面の交付」と決められています。本人が希望すればメールなどでも構いませんが、口頭だけではダメです。
つまり、面接で紙を見せられただけ、というのは明示したことになりません。法律が求めているのは「見せること」ではなく「渡すこと」だからです。条文でも「交付」と書かれています。読ませてもらっても、手元に残らないなら、会社は義務を果たしたことになりません。
私は、その紙を手に取ることすらできませんでした。あのとき「おかしいな」と思った自分の感覚は、法律的にも合っていた。それが分かっただけでも、調べた意味はありました。
入った後 ── 労働基準法15条
実際に契約を結ぶときは、労働基準法15条です。会社は労働条件を明示する義務があり、そのうち次の項目は「書面の交付」でなければいけないと決まっています。
- 契約の期間
- 働く場所と、仕事の内容
- 労働時間(始業・終業、休憩、休日、残業の有無)
- 賃金(決め方、計算、支払い方法、締めと支払日)
- 退職に関すること
ここも口頭だけではダメだと、はっきり決まっています。そしてこちらは罰則があります。違反した場合は、労働基準法120条で30万円以下の罰金です。
私は今も、この会社と書面を一枚も交わしていません。
途中で条件が変わるとき
もう一つあります。募集のときに示した条件と違う条件にする場合、会社は変更した内容を明示しなければいけません。これも職業安定法で決められています。
私の場合、「週休二日、週一で出てくれれば休日扱いで手当がつく」と言われて入りました。それが3ヶ月で、何の説明もないまま消えました。
黙って消していいものではなかった、ということです。
ただし、重さは同じではありません
正直に書いておきます。二つの法律は、扱いが違います。
- 労働基準法15条の違反は、条文に罰金(30万円以下)が書かれています
- 職業安定法の明示義務違反は、まず行政指導や改善命令が先です。ただし、嘘の条件で募集した場合は職業安定法65条で罰則の対象になります
だから「面接で紙をくれなかった=すぐ罰せられる」という話ではありません。それでも、会社には渡す義務がある側だということは変わりません。
これを知っているかどうかで、面接で「一部、いただけますか」と言えるかどうかが変わります。お願いではなく、当然の要求だからです。
もし同じ状況で不安な方は、各都道府県の労働局に総合労働相談コーナーがあります。無料で、予約もいりません。
これから面接を受ける人に、一つだけ
偉そうなことは言えません。私は書面をもらわないまま入って、今もそこで働いています。
ただ、一つだけ。
面接で条件の紙が出てきたら、手に取れるかどうかを見てください。
「一部、いただけますか」と言ってみる。それだけでいいです。
すぐ渡してくれる会社は、たぶん大丈夫です。あとで揉めたときに、お互いが同じ紙を見られるからです。
渡さない会社、こちらに向けようとしない会社は——私の場合は、そうでした。
入ってからでないと分からないことは、正直たくさんあります。手当がどうなるか、休日手当が続くか、残業が本当に払われるか。全部、入らないと分かりません。
でも、紙の出され方だけは、入る前に見えます。私が唯一、あの面接室で見えていたサインは、それでした。
この記事のまとめ
- 「給料は変わりません」は嘘ではなかった。基本給だけ見れば、確かに変わらなかった
- 手当が一つもなかった。皆勤・愛車・研修・無事故——前の会社にあったものが、全部ない
- 基本給が高く見えるのは、みなし残業が溶けているから
- 休日手当は3ヶ月で消えた。祝日が一日もない月が来て、はっきりした
- 明細のコピーを渡して説明を求めたが、返答は来なかった
- 書面が一枚もないので、「話が違う」と言う材料がない
- 書面を交付しないのは労働基準法15条違反。30万円以下の罰金
- 面接で紙が出たら「一部いただけますか」と言う。それだけで見えることがある
条件を、自分で聞きにくい人へ
「一部いただけますか」の一言が言えれば、それが一番早いです。ただ、それが言えなかったのが私です。
そういうときに、間に人を挟むという手があります。ドライバー専門の転職サービスなら、条件面の確認を代わりにやってくれるところがあります。
たとえばドライバーの求人・転職・募集なら【レバジョブ】
は、ドライバー職に特化したサービスです。
私は登録していません。今はIndeedで求人を眺めているだけなので、使った感想は書けません。ただ、言いにくいことを代わりに聞いてもらえるのは、こういう業界では意味のある仕組みだと思います。
自分で直接聞ける人は、そのほうが早いです。無理に使うものではありません。
最後に
この記事を、会社への文句として書いたつもりはありません。
書きながらずっと思っていたのは、あのとき「一部ください」と言えていたら、ということです。たった一言です。それで全部が変わったとは思いませんが、少なくとも今、手元に一枚あったはずです。
そして、同じ状況にいる人に「ちゃんと言ったほうがいい」とは、言えません。
私が、言うのをやめたので。
今は、別の方法を考えています。それは、また別の記事で。
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コメント
記事読ませていただきました。中小の運送屋の最前線だと、待遇や契約から理不尽なこと多々あると思います。この前にも名古屋のトップクラスの燃料油ローリーの待遇お書きしました。
それを踏まえて、東京東部なら千葉の市川のエネックスかビューテックローリーなら上澄みも上澄みです。通勤時間がキツくなければ両社どちらもおススメですのでお話だけ聞いてみるのも、良いと思います。
応募してみて好感触なら、もう1歩踏み込んでみてお試しの1日横乗り体験できるかどうか、聞いてみたらさらに良いと思います。1日横乗り体験さえできれば、自分にとって良いところ悪いところが、かなり分かりますので。
いま大手は2024対応で仕事任せられる確かな人材を求めてます。待遇もしっかりしてますし、単車でもトレーラーでも日曜出勤も月1日の輪番程度ですみます。時間指定も、関東なら高速ですら渋滞が頻発してますのでキツイ事はありません。(名古屋でやってる感想なので、ちょっと違うかもですが…)
せっかく待遇の良い仕事が、自分の経験を高値で買ってくれる今なのに、低い待遇に耐えながら引っ込み思案してても仕方がありませんので、ぜひ良さげな会社に話だけでも聞いてみるのをお勧めします。
僕もローリーの前は路線バス11年やってましたけど、路線バスやめてローリーやって良かったと心底思ってますので!!
コメントありがとうございます。前回に続いて、ここまで具体的に書いていただいて助かります。
実は前にいただいたコメントがきっかけで、「残業70時間はきついのか」という記事を書きました。今回もまた、考えるきっかけをいただいた気がしています。
社名まで挙げていただいたので、調べてみます。場所も、今考えているところとそう変わらないので、「話だけ聞いてみる」なら今の自分にもできることなので、そこは受け止めました。
横乗りの話、すっかり頭から抜けていました。25年いれば当たり前に知っている話なのに、自分が受ける側になると出てこないものですね。
見学に行って荷物を見る、数字を聞く、というところまでは記事にも書いているのに、いざ自分の転職となると、そこまで頭が回っていませんでした。しかも「応募して好感触なら」というタイミングまで込みで教えていただいて、具体的で助かります。
引っ込み思案、というのはまさにその通りで、スカウトは毎日来るのに応募ボタンが押せない、という記事を書いたこともあります。背中を押していただいて、ありがとうございます。
路線バス11年からローリーに移って良かったと言い切れるのは、強いですね。その一言が一番効きました。
ご返信ありがとうございます。
僕もはじめはローリーに転職しようとしてなくて、危険物のドラム缶などをトラックで運ぶ会社に、路線バスから転職しました。そこが駄目だったので、色々有ってローリーに行き着きました。
少なくとも、タンクローリーでENEOSや出光のマークを付けて走ってる大手なら運賃もちゃんともらっていて、運転手によい待遇出せるだけの仕組みが出来ています。
いっちゃんさんも、最終的にローリーやられるかはその時次第でしょうが、結局は自分にとってよい仕事は探してやってみないとわかりません。
自分にとっての良い仕事が見つけられると最高ですね。良い報せがこのHPに記載される事を楽しみにしてます。
重ねてありがとうございます。
最初からローリーではなかった、というのは意外でした。路線バスのあとに一度うまくいかなかった転職があって、そこからローリーに行き着いたんですね。
一回目の転職で正解を引けなくても、その先で「やって良かった」と言えるところに行き着くこともある。そう思えて、少し気が楽になりました。
「自分にとってよい仕事は、探してやってみないとわからない」。本当にその通りだと思います。
良い報せになるかはまだ分かりませんが、動いたときは、うまくいってもいかなくても、ここに書くつもりです。